ひかり雑記

親愛なるしむどんに捧ぐ

新幹線の台車に発生した亀裂を見てぶったまげました

新幹線で重大インシデントが発生しました.

 

博多発東京行きののぞみ34号は11日午後1時33分に博多駅を出発した。まず、最初の停車駅の小倉駅を出るときに乗務員が焦げたようなにおいに気付く。そこで岡山駅から乗車したJR西日本の社員が調べたところ、13号車から14号車の間でうなるような異常な音を確認したという。このときは走行に支障はない、として運転を続けたが、京都駅付近で再び異臭があった。そこで名古屋駅で車両の床下を調べたところ、台車に亀裂が見つかり、運休となった。

新幹線史上初の重大インシデント…なぜ?|日テレNEWS24

 

 

 ニュースを見たときは「亀裂入ってたんだー大変だなぁ」くらいの印象だったのですが,亀裂の画像が上がってたのを見てかなり驚きました.以下のページでその写真が見れるはず.

 

mainichi.jp

 

下は12/20の西日本新聞の記事から.

 

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このニュースを調べてると至る所で「安全神話の崩壊」と書かれていることにつらみを感じます.インシデントというのは事故ではないけど,このまま放っておくと事故につながった事態のこと.

 

今回は重大なインシデントではあるけれど事故を未然に防ぐことができた事件であり,新幹線の運用の信頼をあげるニュースだと思うんですが,どうやらニュースを見てるとそうでもないような書き方をされています.

 

「なぜ亀裂が入ったのか?」みたいなまるで亀裂は絶対に入ってはいけないもののように書かれてますが,亀裂ってのはどんなところにもあるし,その亀裂は機械を使用するたびに伸びるものです.き裂や疲労破壊を根絶やしにすることは不可能なのです.なので私たちがやるべきことは疲労破壊が起きる前に,亀裂を発見して対処するということなのです.

 

亀裂の長さを  a としてそれを応力サイクルの回数 n微分したものを亀裂の伸展速度と次に示すパリス則にしたがって亀裂は伸びていきます.

 

\displaystyle \frac{da}{dn} = c (\Delta K)^m

 

 \Delta K は応力拡大係数範囲です.応力拡大係数の変化を表します.ところで応力拡大係数  K

 

\displaystyle K = \sigma_0 \sqrt{\pi a}

 

で定義されています.なので結局亀裂の伸展速度は 

 

\displaystyle \frac{da}{dn} = c (\sigma_{max} \sqrt{\pi a}-\sigma_{min} \sqrt{\pi a})^m

 

となります.亀裂の伸びる速さは亀裂が伸びれば伸びるほど大きくなっていくことがわかりますね.怖いですね.応力の変化は機械を運用する上では必然的に起きるものです.なのでどんなに小さい亀裂でもやがて大きくなって致命的な破壊につながるというのが疲労破壊です.そしてその小さい亀裂というものは,現実に存在する材料には全て含まれています.ということは材料というものは使い続ければやがて壊れるものということです.というのは誤りなのですが,そのことについては今回割愛します.知りたい方は「疲労限度」で調べてください.

 

ところで,cとかmとかありますが,これは材料によって決まっている定数です.硬い材料の方が大きくなりますし,寒い環境の方が大きくなるといった雰囲気を持つ定数です.

 

今回の件に関係あるかどうかはわかりませんが,温度の影響というのは結構大きいです.有名な事例でいうとリバティー船という船が真冬の海で真っ二つに割れる事件が多発したというものがあります.

 

そのた色々な要素により疲労破壊は影響を受けるので,今回の新幹線インシデントが起きたのかわかりませんが,これから解析が進んでいくものだと思われます.頑張って欲しいですね.

 

色々と話が寄り道しすぎて何の話をしてたのか忘れてました.言いたいのは「亀裂は必ず発生する」ということです.亀裂が入っていたこと自体を叩きまくってる新聞社がいて,それに乗っかって安全神話が崩壊したなんていってる人はただのバカです.

 

事故というものは必ず発生します.どんなに気をつけて運用しても必ず事故が発生します.その事故をできるだけ少なくするのが安全という考え方です.事故が0であることを安全だと思っている偉い人は即時引退して余生を楽しんで欲しいものです.

 

今回の件は氷山の一角に過ぎません.あれだけ大きな亀裂が存在したということは同等の大きさの亀裂を持つ車両はおそらく存在するはずですし,小さな亀裂は無数に潜んでいるということです.

 

繰り返し運用することで亀裂は伸展していきます.新幹線はこれまでは事故がなかったのかもしれませんが,今後どうなるかはわかりません.時間とともにダメージは蓄積されていくということ.そして車両の軽量化とともに,車両はどんどんスマートになっています.昔の機械というものは「よくわからないから,強く作ろう!」という方針で作られていました.近年の機械はコンピュータでシミュレーションして安全な値ギリギリで作られています.そのため新幹線の軽量化が進み速度は速くなり環境性能もアップしています.経済性能と安全性能はトレードオフなのです.最新の設備や機械であるほど運用には細心の注意を払わないといけないと思います.

 

今回の件は大きな事故につながる前に防げて本当に良かったです.これからも重大事故が起きないことを願って.

 

参考:

http://jikosoft.com/cae/engineering/strmatf18.html

https://ja.wikipedia.org/wiki/リバティ船

https://ja.wikipedia.org/wiki/応力拡大係数

http://yaritakunai.hatenablog.com/entry/2017/08/03/001000

https://www.westjr.co.jp/press/article/2017/12/page_11639.html

https://mainichi.jp/articles/20171220/k00/00m/040/136000c